大阪地方裁判所 昭和43年(借チ)56号 決定 1969年7月14日
第五六号事件申立人・第六〇号事件相手方 日本レーヨン株式会社
第五六号事件相手方・第六〇号事件申立人 宇都宮武実 外一名
主文
本件建物及び土地賃借権譲受の申立を却下し、本件土地賃借権譲渡許可の申立を棄却する。
理由
一、(一)、本件土地賃借権譲渡許可の申立の要旨は次のとおりである。
(1)、昭和四三年借(チ)第五六号事件申立人(同第六〇号事件相手方)(以下単に「申立人」という。)は、同二八年九月一六日別紙第一記載の土地(以下「本件第一土地」という。)並びにこれに隣接する別紙第二記載の土地(以下「本件第二土地」という。)にまたがつて建築されている別紙第三記載の建物(以下「本件建物」という。)を他より譲受けてその所有権を取得したうえ、同年一一月本件第一土地の共有者である(本件第一土地はもと同第五六号事件相手方等(同第六〇号事件申立人等)(以下単に「相手方等」という。)の父宇都宮稔の所有であつたが、同人の死亡により、その子である相手方等がこれを共同相続したものである。)相手方等との間に、本件第一土地につき、木造その他の堅固でない建物を所有する目的で、賃貸期間を同二八年九月一六日より向う二〇年間、賃料を月三〇〇円(その後同四一年四月に一、二〇〇円に増額されて現在にいたつている。)、敷金を五、〇〇〇円と定めて賃貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(2)、しかして、申立人は、同二九年四月他より本件第二土地の所有権を譲受け、本件建物を従業員の社宅として使用して来たが、近時会社の方針として、従業員持家制度を採用して社宅制度を廃止することとなつたため、本件建物が不要となり、同四三年夏頃から空屋のままとなつている。
(3)、そこで、申立人は本件建物を和光住宅株式会社に譲渡し、これに伴い、その敷地である本件第二土地に新たに賃借権を設定するとともに、本件第一土地の賃借権を同会社に譲渡したい。
(4)、和光住宅株式会社は建物の建売業者として資力もある堅実な会社で、本件建物を従業員の社宅として使用することとなつているので、本件第一土地の賃借権を同会社に譲渡しても相手方等に不利となる虞はない。
(5)、しかるに、申立人が本件第一土地の賃借権の右譲渡につき相手方等の承諾を求めたところ、これを拒絶されたので、その承諾に代わる許可の裁判を求める。
(二)、相手方等は、自ら本件建物及び本件第一土地の賃借権の譲渡を受くべき旨の申立をなし、他方、申立人の申立に対しては、「申立人の申立を棄却する。」旨の裁判を求めているが、その理由の要旨は次のとおりである。
(1)、本件契約の賃貸期間は近く満了するが、相手方利一は現在他家の一部を賃借してこれに居住しているところ、右借家は極度に老朽化しているのみならず、同相手方は間もなく結婚する予定であるので、本件第一土地を使用して同相手方の居住すべき住居を建築する必要に迫られている。
(2)、これに対し、申立人は既に本件建物を不要としており、本件第一土地使用の必要性はないのであるから、相手方等には右賃貸期間が満了した場合に本件契約の更新を拒絶すべき正当な事由がある。
(3)、従つて、申立人の主張するような本件第一土地の賃借権の譲渡を承諾することは相手方等にとつて不利となるものである。
二、以上の申立に対する当裁判所の判断は次のとおりである。
(一)、本件記録によると、申立人の主張する前記一の(一)の(1) 、(2) 記載の事実が認められる。
(二)、しかして、相手方等は自ら本件建物及び本件第一土地の賃借権を譲受ける旨の申立をしているけれども、本件建物は本件第一土地と本件第二土地にまたがつて建築されている一個の建物であつて、その土地の境界を境にして区分所有権の対象となり得るような構造のものではないことが明らかである(従つて、相手方等は本件建物のうち、本件第一土地の地上部分のみを譲受けることはできない。)ところ、本件第二土地の所有者である申立人は、相手方等に対し、該土地を本件建物の敷地として使用させることを承諾しないので、相手方等は、本件建物及び本件第一土地の賃借権を譲受けることを得ないものと謂うべく、結局、右申立は不適法なものである。
(三)、そこで、申立人の土地賃借権譲渡許可の申立についてみるに、前記認定のように、本件契約の賃貸期間は同四八年九月一五日までであと四年余を残すのみであるところ、本件記録によると、次の(1) ないし(4) 記載の各事情が認定でき、これによれば、相手方等は申立人に対する関係においては、近々に迫つている本件契約の期間満了の際に、自ら本件第一土地を使用する必要上契約の更新を拒絶して、本件第一土地の明渡しを求めるに足る正当な事由を有しているものと解せられるのみならず、相手方等が前記のように、本件第一土地の自己使用の必要性に基づき、本件建物及び本件第一土地の賃借権譲受の申立をなしているのに対し、申立人において本件第二土地につき賃借権の設定を承諾しないため、右申立が排斥を免れない状態におかれているので、これらの一切の事情を綜合すると、現段階において、申立人の前示申立にかかる許可を与えることは相当でないと認められる。
(1)、相手方利一は、現在、年令二九才の独身者で、豊中市岡町八番一二号に所在する一軒の家屋の半分を賃借して自炊生活をし、大阪エンパイヤモータープールに管理人として勤め、月収四二、〇〇〇円位を得ているものであるが、右賃借家屋は建築後既に一〇〇年余を経過した老朽家屋で朽廃の時期が迫つており、加えて、年令的にも近く結婚をしなければならないが、右賃借家屋で世帯を持つわけには行かない状況にあるので、差し迫つて住居を新築する必要性があること。
(2)、相手方等の所有する土地(いずれも相手方等の父稔の所有土地を共同相続して共有しているもの)は、合計約三九六平方メートル(約一二〇坪)であり、うち約一六五平方メートル(約五〇坪)を相手方武美がその所有にかかり住居に使用している建物の敷地にあて、うち約一六五平方メートル(約五〇坪)を他に賃貸し、賃借人がその地上に一棟二軒の建物を所有してこれに入居者らが現住しており、残余の約六六平方メートル(約二〇坪)が本件第一土地であるところ、相手方武美の使用している土地は道路に面した部分が二、三年後に施行される道路幅員拡張工事のため幅約二メートルにわたつて減少せられることとなつているので、建ぺい率や日照などの関係からこれにさらに相手方利一の居住の用に供する建物を新築することは難しく、他方、賃貸している土地のうち、本件第一土地以外の部分は、現にその地上の建物に居住者がいるので、その土地の明渡しを求めることは他に影響するところが大きくて困難であるばかりでなく、適当でないこと。
(3)、これに対して、申立人は、資本金約一二八億円の会社で、本件建物を既に不要とし、空屋のままとしているものであるのみならず、本件建物は建築後既に相当年数(少くとも四十五年以上)を経過しており、かつ、本件契約締結にいたつた経緯は、申立人が相手方等の了解を得ずに本件建物を譲受け、事後に相手方等にその敷地である本件第一土地の賃借権譲受けの承諾方を申入れて来たものであるところ、相手方等は取り敢えずは本件第一土地を使用する必要性がなかつたので、申立人の立場や、申立人が規模の大きな会社であるため、経済的にも道義的にも信用し得るものと考えて、新たに申立人に対し、賃貸期間を二〇年に限り本件第一土地を賃貸することとしたもので、その賃貸条件としても、敷金五、〇〇〇円を受領した他は、いわゆる権利金、承諾料ないし名義書換料等を徴してはおらず、また、従来の賃料額も格別高額のものではなかつたこと。
(4)、相手方武美は、日本農薬株式会社に勤務し、月収五〇、〇〇〇円程度を得ており、家族は妻と子供二人であるところ、相手方等は、前記のように、相手方利一の居住する住居を新築する必要に迫られたため、本件契約の賃貸期間の満了を待つて本件第一土地の明渡しを求め、相協力して、本件第一土地と現に相手方武美の住居を建築している土地の余剰部分とを利用して、家屋を新築し、これに相手方利一が入居するか、ないしは、相手方武美が入居して、現在相手方武美が入居している家屋に相手方利一が居住するか、いずれかの処置をとるべく具体的に計画中であり、その資金等の面においても右計画の実現は可能であると考えられること。
(四)、よつて、相手方等の申立を却下し、かつ、申立人の申立を棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判官 松下壽夫)
別紙第一
大阪府豊中市桜塚元町六丁目一六番一〇
一、池沼(現況宅地) 四九・五八平方メートル(実測六六・一一平方メートル)
別紙第二
大阪府豊中市桜塚元町六丁目一六番四一
一、宅地 九九・一七平方メートル
別紙第三
大阪府豊中市桜塚元町六丁目一六番一一
家屋番号三六番
一、木造瓦葺平家建居宅 床面積六七・七六平方メートル